人力移動による速度2007年03月04日 01時10分

「人力による移動は遅い」
人はそう考えがちだが、この考えは場合によって間違っている。実際、トップレベルのマラソン選手がどれくらいの速度で走っているか認識している人はどれくらいいるだろう。男子世界記録は約 2時間10分。その時間で 42.195 km 走るわけだ。大雑把な計算をすれば平均時速 20 km/h くらいにはなる。最高ではなく平均ということに留意していただきたい。すなわち一時間走れば 20 km も自分の足で移動している人たちなのだ。この数字を冷静に考えればどれくらい凄い数字であるかがわかってくる。都市部で車を使って移動すると平均時速 20 km/h はおそらく運がいいときの時速だ。実際にはもう少し遅い値になるだろう。信号もあれば渋滞もあるし、右左折する車やら邪魔な車に行く手を阻まれることもあるので、いくら瞬間で 50 km/h 出ていようが次の瞬間に目前の信号が赤であればブレーキをかけなければならない。燃料とブレーキパッドの無駄遣いに終る。移動手段として考えれば最高速度よりも平均速度が重要になる。そういう点ではマラソン選手は車より速いことになる。
距離も凄い。自分の家を起点にして 42 km がどれくらいか調べてみるといい。かなり遠いことがわかるだろう。大都市近郊に住んでいて、大都市圏に通勤しているという人であれば、一日の移動距離がそれくらいという人も多いかもしれない。
ただ、マラソン選手の記録は一般的に信号待ちも進路妨害もないベストの記録である。したがって公式記録がそのまま一般道路で適用できるわけでもなく、規制されていない公道を走れば信号にもひっかかるだろうし、渋滞は無関係としても踏切だの交叉点だのでは周囲に注意しなければならない。仮にその場合の平均時速が 15 km/h だとするとそれでも車と同等ということになる。侮ってはいけないし、環境負荷という面で考えればこれ以上クリーンな移動手段は何もない。それで車と同等の平均速度が出せるのだ。

その要領でいくつかの種目についてトップレベルの平均時速を計算してみた。

100 m 走: 36 km/h
1500 m 走: 25 km/h
50 km 競歩: 14 km/h
ツール・ド・フランス: 40 km/h

トライアスロン(ショート)
水泳: 4.5 km/h
自転車: 40 km/h
マラソン: 20 km/h

100 m 走は短距離なので彼らは駅まで走るという程度の実用性しか持ち合せていないにしても 35 km/h くらいの速度で走っているわけだ。自転車でもそんな速度はなかなか出せるものではない。街でいきなりそんな速度で走る人を見たら腰を抜かすだろうという速さだ。人とぶつかっても人身事故になるだろう。
ツール・ド・フランスは約 3000 km の距離、高低差 2000 m というとんでもないコースを走る自転車レースであるが、これはチームで走るので他人の後ろを走って体力を消耗しないなどのテクニックが使われたりもするらしい。したがって自力ばかりとは限らない。それでもすべては人力で、これだけの高低差がありながら全区間の平均速度が 40 km/h もある。くどいが「平均」速度であって「最高」速度でないことに留意されたい。車でも容易ではない。
驚くべきは競歩である。彼らは歩いて平均 14 km/h で移動する人たちだ。街でジョギングしている人より速いばかりか、駅まで、学校まで、スーパーまで走らせる普通の自転車ですら競歩より遅い。おまけに彼ら短距離用途自転車乗りには残念ながら 50 km もの距離を走る気力と体力はないだろう。
よくマラソン中継でいちびって歩道を自転車で並走している連中がいるが、彼らが次つぎと脱落していく様子を見てもマラソン選手がどれだけ速くて持久力があるかがわかるだろう。
「ママチャリでも自転車。マラソンごときに負ける筈がない」と信用していないあなた、挑戦してみませんか。ママチャリでもアシスト自転車を使ってもきっと彼らには勝てないでしょう。(アシスト自転車は 30 km 程度でバッテリが切れてしまうのだった)